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坂本からの便りにはあの日何故西郷が下関に来られなかったかの理由が綴られていた。
あの日西郷が来なかったのは江戸に向かったからだった。
「二度目の長州征伐の命令が下ったのを取り下げるよう直談判する為に行き先を江戸に変更したそうだ。」
「そうか。って事は遅かれ早かれまた戦になるなぁ。桂さん武器が欲しい。」
阿弥陀寺の本堂に上がるまでの階段に腰掛けて話していた高杉は真っ直ぐ前を見たまんま隣りに腰掛ける桂に言った。
「……分かってる。」 額頭紋消除
「すまんな……いつも気が滅入る役回りばっかで。」
「それはお互い様だ。」
桂はふっと鼻で笑った。
「お前だって私がここに戻るまで大変だったろ。」
桂の言葉に今度は高杉がふんと鼻を鳴らして笑った。
「まぁな。都合良く泣きついてくるもんでな。とにかく外国との停戦交渉はどうしようかと思ったわ。けど俊輔が通訳で役に立った。あいつイギリスに行かせちょって良かったな。」
「あとはお前の作戦勝ちだろう。直垂に烏帽子で古事記を延々話したと?伊藤君も訳しながら気が狂いそうやったって言っちょったぞ。あと賠償金は幕府に請求……ふふっそれは良くやった。」
桂に褒められた高杉は得意げににっと歯を見せた。
「やのに長州征伐が迫っちょるの分かったら幕府にひれ伏す馬鹿な身内に命狙われて小倉まで逃げたわ。」
長州藩の内部もまた佐幕派と幕府と穏便でありたい保守派に分かれたままで,佐幕派が何か仕出かす前にと保守派が次々粛清していった。その上幕府の言いなりになり家老三人に腹も切らせた。
流石にそこまでやりたい放題やられて黙ってる高杉じゃない。身を隠してた小倉からすぐに長府に戻った。
「内乱起こすはいいがもう俺の味方はほぼおらんくて呼びかけて集まったんは俊輔と他に八十人ほど……。奇兵隊はもう総督罷免されとったし武人には無謀やって手も貸してもらえんかったしなぁ。」
頼りになる久坂も吉田も入江も居ない。そんな状況にも関わらず伊藤と力士隊その他の有志で功山寺にて挙兵した。
「それでよく勝てたな。」
「やろ?本当に上の連中は都合良く俺を呼び戻す癖に何かあるとすぐ殺そうとしやがって。
ちょうどそこで桂さん帰って来てくれたけぇ助かったわ。」
戻って来て早々高杉と伊藤の命を狙うのは止めろと叱咤させられるとは思わなかったと桂は苦笑した。
「桂さんも大変やったな……出石……。」
「もう思い出させないでくれないか……。」
そろそろ前を向かせてくれと深い溜息をついた。「んで,どうなん?三津さんは傍におってくれそうなん?幾松さんが味方してくれとるけぇちょっとは良くなるんやないか?」
「幾松が三津をそう言う風に認めてたのは今朝初めて知ったよ。
三津は……妻にはなってくれなくても多分近くには居てくれるんじゃないかなぁ……。心配症で世話焼きな所あるから。愛情じゃなくて同情の部類になると思うがそれでも居てくれるなら私は構わない。」
「九一はどうする気やろな。つげの櫛まで渡しといてどことなく桂さんとの仲取り持っちょるやろ?」
それには桂も感じているが解り兼ねると唸った。
「文ちゃん曰く九一は夫婦になる事にこだわっとらんらしい。それは三津も同じらしいから二人は今のままで一緒に居たいんじゃないかと思う。」
どう言うつもりなのか真意は二人にしか分からないが桂の中では二人は時間を止めたいのではと思ったりする。
二人の似ている所は心の弱い部分だと桂は思う。
入江は師の最期も同志の死も,受け容れて感情を上手く処理する事が出来ないでいた。
三津もまた同じだ。