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織田家は元々斯波氏の家臣の立場にあり、一時は義統の父で前斯波家当主・義通によって弱体化していた。
しかし義通が失脚し、義統が幼くして家督を継いだのを機に、織田家は徐々にその勢力を回復。
やがて主家を凌ぐ程にまで成長した為、斯波氏は次第に力を失っていき、今や信友に擁される傀儡守護に成り果てていた。額頭紋消除
信友は織田伊勢守家や台頭目覚ましい織田弾正忠家に対して、自らの大和守(清洲織田)家こそが、
織田家の中枢なのだという主張を兼ねて、主家の義統を擁して来た訳だが、少なくとも彼のような偶人的存在にはなりたくないと常に思っていた。
「その通りじゃ、大膳。儂はいつまでも家臣の腕にすがるばかりの無能者ではない。
それ故、もしも佐渡守らの説得が思わしくなかった時は、儂が直々に信勝殿をご説得申す」
「殿が、お一人で?」
「無論じゃ。必ずや儂が信勝殿を説き伏せ、あのうつけ者を討つように仕向けてみせるわ」
信友が軽快に笑う様を、大膳は暫し険しい表情で眺めると
「承知致しました。殿のお手並み、しかと拝見させていただきまする」
急に笑顔に切り替え、ゆっくりと低頭した。
「では殿、今宵はもう遅うございます故、我々はこれにて──」
大膳は今一度頭を下げると、与一と三位を引き連れて速やかにその場を辞した。
部屋の襖をきちんと閉め、点々と行灯の置かれた薄暗い廊下を、三人は黙って歩いて行く。
「坂井殿、よろしいのですか? 殿にあのような勝手な真似をさせて」
ふいに与一が、信友のいる部屋を軽く振り返りながら、声をひそめるようにして伺った。
「別に構わぬ。どちらにしろ信勝様が心を決めて下さらねば、此度の策は進められぬのじゃ。
殿が直々にご説得申し、それで信勝様が納得して下さるのであれば、それに越した事はない」
「殿は大方、信勝様のご説得に当たられる事で我ら重臣に主君としての威光を見せつけられたいのであろうが、
それしきの事で、長年我々が握り続けて来た家中での主導権を、今更取り戻せるとでもお思いなのでしょうかな」
三位は辛辣に笑った。
「我々が信勝様の擁立に尽力致すのは、偏に目障りな信長を廃し、我らが後ろ楯となった事実を恩に、
信勝様もろとも弾正忠家の者たちをこちらの手の内に収める事が狙い。何かと油断のならぬ信長と違(ちご)うて、信勝様は扱いやすいからな」
言うなり大膳は、喉もとで妙な含み笑いをし
「我らの権勢保持の為にも、殿にはせいぜいお力を尽くしていただこうではないか」
「はてさて、あの方にどこまで出来るか」
「見ものでございますな」
三人は吐息のようなせせら笑いを漏らしながら、薄暗い廊下の奥へと消えていった。
──人々の考えや思惑が如何に複雑を極めようとも、最終的には道理に従わざるを得ないのが世の常である。
うつけと呼ばれる信長もその道理から外れる事なく、信秀嫡男として織田弾正忠家を相続し、当主の座に君臨した。