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その台詞に三津は何で?と首を傾げた。
「答えを出すのを急ぐ必要はない。無理に正しい道を見出そうとするな。」
斎藤は静かにお茶を飲み干して三津に湯呑みを手渡した。
「美味かった。額頭紋消除 屯所でもこれからはお前に茶を頼むとしよう。」
ご馳走さまと腰を上げた。
『副長がお茶はこいつにばかり要求するのも理解出来る気がするな。』
厄介な宗太郎も居なくなった事だし,またひっそり見守ろうじゃないか。
そう思って身を翻した瞬間,どんっと背中に衝撃。
視線を落とせばお腹に纏わりつく細い腕。
「斎藤さんありがとう!めっちゃ好きっ!」
三津が勢い良く抱き付いて背中に頬擦りをしていた。
お腹に回された手にはぎゅっと力がこもる。
もやもやした気持ちが吹っ飛んだ。
斎藤がかけた言葉は誰かにかけて欲しくて待ち望んでた言葉だったんだ。
その嬉しさが爆発した。
斎藤は恥ずかしさが爆発。
「馬鹿っ!場所をわきまえろ!」
状況を理解した斎藤の顔は真っ赤になった。
好奇の目やら妬ましい目やら,ありとあらゆる視線が二人に集中する。
「離れんかっ!」
ぐるんと大きく体を振ると,
「おわっ!」
三津の体も大きく揺れて斎藤の目の前まで引っ張り出された。「振り払おうやなんて冷たいやないですか旦那様ぁ~…。」
「都合良く旦那と呼ぶな。誤解の生じる行動も慎め。」
「はい…。」
三津は渋々身を剥がして,もっと喜びを伝えたかったのにと口を尖らせた。
周りが自分達を見ながらヒソヒソと話すのを気にしながら,斎藤は頬を赤く染めて大きく息を吐いた。
「全く…。近所の者には後で事情を説明しておくように。」
「はい…でも……。」
「何だ。」
涼しげな顔をしながらも不機嫌そうな声で聞き返すと,
「会いに来てくれてありがとうございます。」
反省してるのかしてないのか。
三津はふにゃふにゃの笑顔で斎藤を見上げた。
「おぅ…。」
ありがとうと言われて悪い気はしない。
こんな緊張感の無い笑みを向けられたら尚更。
「難しく考えるんじゃないぞ。じゃあな。」
そう告げて立ち去ろうとしたが,
『このままじゃ俺の立場と言うものが…。』
三津の頭に手を翳して撫でようとする仕草を見せた。
当然撫でてもらえると思った三津は嬉しそうに目を細めたが,
「何を期待してるんだ?」
斎藤の手は三津の鼻をきゅっと摘んだ。
「ん!」
これで満足した斎藤はふっと口角を吊り上げた。
「もう!」
膨れっ面の三津の頭に今度こそ手を被せて子犬を扱うように撫でてやった。
「もう行くからな。」
そんな事言わずにさっさと立ち去ればいいものを,何度も“じゃあな”を繰り返した。
三津はぶんぶん大きく手を振って,それからぺろっと唇を舐めた。
「…さっ,お遣い済ませて遊びに行くで~!」
斎藤のおかげでだいぶ吹っ切れた。
彼の後ろ姿が見えなくなってから,三津はたすき掛けをした袖を更に捲り上げて意気込んだ。
頼まれた用事を片付けて,その足で宗太郎の元へ。
子供達の無邪気さに,どうしようもないほど救われた。
この時ばかりは何も考えなくて済むからずっとこうしていたいと思う。
「今度は総司連れて来いや。」
宗太郎の何気ない一言に三津はふと思う。
『沖田さんも子供と遊んで嫌な事忘れてるんかな。
…うん,きっとそうや。』
稽古を抜け出したり,土方をからかって,子供と遊んで,そう言う事で辛い事も悲しい事も忘れようとしてるんだと思った。
「せやね,辛いのは自分だけやないよね。」
にな。そろそろ逝くよ。あまり引っ張りすぎても飽きられるだけだから」
「うん。そうだね。つぎは、マジで死んでよ。二度あることは三度あるっていうし、二度つづけたら三度目もやらなきゃいけない。それって、ただの調子のりだからね」
なんと、俊春は俊冬にたいにいいはじめた。
「さすがにもうあと二回、さっきのをつづける元気はないかな?別れは充分惜しんだし、そろそろだ」
「だから、はやく逝ってって。額頭紋消除 ぼくが、ぼくがまだ泣きださないうちに。きみには安心、して、逝ってもらいたい、から……」
俊春の声が揺れはじめた。して『早く死ね』って 俊春の気持ちを推し量ることはできない。
その悲しみは、おれたち全員のそれを足してもまだ足りないだろうから。
「俊春、おまえは強い子だ。おれの願いをきき、かなえてくれる。おまえは、おれよりもずっとずっと強くてかしこい。ずっとずっと優秀だ。剣や格闘術や暗殺術、どれをとってもおまえの方がずっと上だ。射撃だって、そうだろう?それなのにいつだっておれに気をつかい、おれを立ててくれた」
を俊春に向けた。
俊冬を抱きかかえる俊春も、満身創痍である。それこそ、フツーの人なら死んでいてもおかしくない傷を幾つも負っている。
「ううん、きみの方がぼくよりすごいよ」
俊春は、それだけしかいえなかったらしい。
ぐっと唇をかみしめている。それこそ、唇から血が流れ落ちそうなほど。
島田も安富も蟻通も中島も尾関も尾形も野村も沢も久吉も市村も田村も、それから伊庭も泣かずに笑って見送ろうと努力はしている。
しかし、この場にいるだれがそんなこと出来るというのか?
そして、副長とおれも……。
お馬さんたちも悲し気にみている。
相棒が、俊冬の副長似のに鼻先をおしつけた。
俊冬は、もうそれを感じることもできないらしい。
「ごめんな、ハジメ君。すみません、副長」
ほとんどきこえなかったが、たしかにそうきこえた。
謝るのは、おれのほうだ。
おれのほうなんだよ、俊冬。
「俊春、護ってやれなくてごめんな。約束を破ってごめんな」
「きみは、ちゃんと約束を護ってくれたよ。子どものころ約束してくれてからずっと、きみはぼくを護ってくれた。きみがいなければ、ぼくは……」
俊春は、これ以上言葉をつづけることができなかった。
俊冬の副長激似の
俊冬は、みえていないであろうに、うれしそうな笑みが浮かんだ。
苦しみもつらさもなにもない、心からうれしそうな笑みが……。
最期の力をふりしぼるかのように、伸ばされた血まみれの掌。それが、俊春の頬をやさしくなでた。
「出会えてよかった。おまえと、ミスター・ソウマやハジメ君、副長やみんなと……」
俊春は、それを聴覚ではなく心できいている。
そして、俊冬は口の形だけで俊春になにかを伝えた。
俊春の頬をなでる血まみれの掌が力を失い、落下した。
「I love you more.」
その瞬間、俊春がつぶやきながら俊冬を力いっぱい抱きしめた。
俊春の隣にいるおれには、俊冬が力を振りしぼって俊春に口の形だけで伝えた最期の言葉がはっきりとわかった。
『I love you.』
かれは自分自身の本当の気持ちを、俊春に最期の最期に伝えたのである。
その一文は、愛を伝えるフレーズとして一般的である。
だが、おれにとってはどんな名優やロマンチックな男性がささやくよりも、ずっとずっと純粋で想いがこもっていたように感じられた。
俊冬が死んだ。
かけがえのない親友が死んでしまった。
みなが静かに涙を流す中、相棒が遠吠えをはじめた。すると、それに呼応し、どこにいるかもわからぬ蝦夷狼たちの遠吠えがきこえはじめた。
数えきれない遠吠えが、蝦夷の大地を、蝦夷の空を席巻する。
その悲哀に満ちた無数の遠吠えもまた、一生忘れることはないだろう。
俊春はだれよりもへこむはずなのに、だれよりも毅然としてしっかりしていた。
副長ですらぼーっとしている中、かれは俊冬の頸を斬り落としたのである。
現代に説がある通り、俊冬の、いや土方歳三の遺体は、五稜郭に運び込んだ。そこの土饅頭にほかの戦死者たちとともに埋葬した。
とりあえず、おれは弁天台場にいかなければならない。
そこで終戦をむかえるというよりかは、そうするよう箱館奉行の永井や新撰組の隊士たちに伝えにいくのである。
そして、副長の戦死のことも。
すでにその凶報は伝わっているかもしれない。だが、直接語りたい。
そのまえに、俊春が榎本らに会いにいくという。
副長のことは、島田や伊庭や野村、それから相棒に任せることにした。おれたちが弁天台場から戻ってきて合流するまで、隠れてもらうことにした。
とりあえず、史実通りの流れにそいたい。
おっと、おれが新撰組の局長になることも忘れてはならない。